杉並ユネスコ協会
第8回韓国スタディツアー
2014年12月27日(土)〜30日(火)

   「近くて遠い国」から「近くて近い国」へ。ギクシャクする日韓関係を草の根の交流を通じて改善していこうと、当協会の青年部メンバーが韓国ソウルを訪れ同国の歴史と文化について理解を深めるスタディツアーを開催しました。

   このツアーは2006年より始まり今回で8回目となります。主な内容は国境近くの非武装地帯と西大門刑務所歴史館の見学、および韓国青年とのディスカッションです。以下、それぞれについて様子を紹介していきます。

   なお本ツアーは公益社団法人日本ユネスコ協会連盟の「2014年度青少年ユネスコ活動助成」を受けて実施しました。

ソウル駅

   まず1つ目として、北朝鮮との国境(正確には北緯38度線付近の軍事境界線)に沿って東西約240km、南北それぞれ2km(幅4km)に広がる非武装地帯(DMZ)を見学しました。

   非武装地帯とは朝鮮戦争の休戦協定締結時(1953年7月27日)に、両国間のあらゆる軍事行為・敵対行為を中止するために設けられた緩衝地帯を指します。

   非武装地帯では鉄柵やフェンスが張り巡らされ、兵役に服する若い韓国兵士が監視台や検問所などで人の動きを観察していました。当協会の青年たちとほぼ同じ世代であり、彼らを見ていると徴兵されることがどういうことかについていろいろ考えさせられます。

   非武装地帯を少し離れると周囲には臨津閣(イムジンガク)、自由の橋、都羅(トラ)展望台、都羅山駅(下写真)など、両国間の対立と交流の歴史を感じられる場所が複数あります。

   それらの中でも「第3トンネル」と言われる、1978年10月に発見された北朝鮮によるソウル侵攻のための地下通路が非常に興味深いものでした。

   現在発見されている軍事トンネルは全部で4本あり、上記のトンネルはその3番目にあたります。ソウルから約44kmの近距離にあり、1時間で3万人の兵士を進入させることができるそうです。

   ガイドの説明によると、仮に4本すべてのトンネルが貫通していた場合、1時間で約10万人の兵士を進入させることができ、1日でソウルを陥落させることができたとのことでした。

   トンネルの内部は狭く、途中までトロッコに乗って降りましたが、そこからは身をかがめて奥まで歩いていきました。壁の所々にダイナマイトを差した穴が残っており、生々しい侵攻作戦の様子が伝わってきました。

   韓国と北朝鮮のように同じ民族同士が戦争をおこない、憎しみ合うという状況は、現代の日本人にとってなかなか想像することができないと思います。その点で、朝鮮半島が抱えた問題の深刻さやその状況の悲惨さというものがかえって強く感じられました。

都羅山駅外観   都羅山駅線路

   2つ目として、ソウル市の西に位置する西大門刑務所歴史館を見学しました(左下写真)。

   同館は20世紀初めから半ばにかけて日本軍が朝鮮/韓国人の独立運動家らを政治犯として収容していた刑務所であり、現在では獄舎(右下写真)を含むさまざまな施設が復元されています。

   館内には日本軍による占領の歴史や政治犯の収容状況に関するパネル、拷問の様子を再現した人形、独立運動に身を捧げた者たちを称えるモニュメントなどが展示されています。

   それらの展示はすべて日本が加害者という視点で表現されています。今回訪問した私たちもそうですが、日本人がこの場所を訪れるとおそらくショックを受け、複雑な心境になるのではと思います。

   戦争が一旦起こるとそこには必ず被害者と加害者が生まれます。同一の人・国であっても、ある時は被害者になりある時は加害者になる。それが戦争というものなのではないでしょうか。

   両方の立場で自国の(とくに戦争に関する)歴史を見ることが重要であり、その1つのステップとして西大門刑務所歴史館を訪問することが必要だと思います。

   私たちが訪問した日は日曜日ということもあり、多くの韓国人が同館を訪れていました。とくに印象に残ったのが子どもたち(小・中学生)の多さでした。社会科見学の一環なのか定かではありませんが、友だち同士のグループで館内を回る姿をよく目にしました。

   日韓の将来を担う若者が歴史に興味を持つことはとても良いことだと思います。ただしバランスの取れた歴史観を養えるよう、施設側がメッセージの発信に注意深くなる必要があるとも感じました。

西大門刑務所歴史館入口   西大門刑務所歴史館獄舎

   3つ目として、韓国の大学生たちと日韓の両文化についてディスカッションをしました。

   トピックは多岐にわたり、最近若者の間で流行していることや学生生活、受験・就職事情、食文化、歴史の学び方、韓国・北朝鮮関係、本音と建前の使い分けなど、お互いに関心のあることを自由に話し合いました。

   例えば受験事情では、韓国でも日本でも競争は激しいですが、韓国人にとって入試は人生にとって避けられないものとして認識されており、目指す学校に受かるまで何度も挑戦する人が多いとのことでした。

   また韓国では「大学に入学してからがスタート」という言葉が非常に印象的でした。自身のやりたいことに本格的に取り組み始めるのが大学時代であり、就職も見据えて語学やインターンシップに励み研鑽を積むのが一般的な大学生の姿であると言っていました。

   一方、日本ではどちらかと言えば大学への入学がゴールとして認識される傾向があり、大学時代に目標を設定して自己啓発する学生はそれほど多くはないのではという意見が出ました。

   韓国側の話の中で最も興味深かったのは歴史の学び方です。韓国では2009年より「韓国史」という科目が学生全員の必修となり、文系理系関係なく履修することが義務づけられました。

   公務員や外交官などを目指す場合には「韓国史」習得のライセンスが必要になるそうです(いくつか級があるとのこと)。

   その背景には韓国の若者が自国の歴史について十分な知識を持っておらず、それを当時の政府が問題視したからであると言われています。

   しかし韓国の学生の反応はと言えば、必修科目が増えることになるため不満の声が多くあがったとのことでした。

   一方、日本では「日本史」は選択制であり必ずしも学生全員が学ぶわけではありません。日本史を必修とすべきかどうかは賛否両論あるかと思いますが、少なくとも政府機関で働く人は必要な知識を持っておいた方がよいのではと思います。

   韓国人大学生とのディスカッションは所定の時間を大幅に超えて非常に盛り上がりました。それは韓国側も日本側もお互いの文化に興味を持っている証拠だと思います。このような意見交換の場をさらに増やしていきたいと思います。

韓国青年とのディスカッション(喫茶店)   韓国青年とのディスカッション(レストラン)

   韓国でのスタディツアーを通して日本との違いを感じるとともに、日本と共通する点もあるように感じました。世界の中で日本と韓国は文化的に非常に近い関係にあり、わかりあえる可能性が一番高いのが実はお互いの国なのかもしれません。

   今回学んだことを活かして、韓国だけでなく日本の歴史と文化についてもさらに理解を深めていきたいと思います。

   最後に、ディスカッションをアレンジしてくださった韓国ユネスコ協会連盟と参加者の韓国人大学生の方々に心よりお礼申し上げます。また貴重な助成をしてくださった日本ユネスコ協会連盟の皆様にも感謝申し上げます。

※本ツアーの詳しい情報は「第8回韓国スタディツアー報告書」をご覧下さい。またツアー中の様子を撮影した動画もご覧いただけます。

(岩野智)