杉並ユネスコ協会
ユネスコ運動の日2016
講演会「子どもの貧困について」
講師 渡辺由美子氏(特定非営利活動法人キッズドア理事長)
2016年7月16日(土)セシオン杉並 第8〜10集会室
参加者 40名

会場全景

   日本の子どもの6人に1人は貧困。

   とくにひとり親家庭の子どもでは、2人に1人が貧困という衝撃的な調査結果がOECD(経済協力開発機構)より示されています(貧困とは1人あたり年間122万円未満で暮らす生活を指します)。

   貧困家庭では十分な教育を受けることができず、さらに収入の高い職に就くことが難しくなります。

   それは次の世代の貧困を招き、世代を超えて負の連鎖が続いていくことになるのです。

   そのような悪循環を断ち切るため、ユネスコとして何ができるのか。

   それを考えるうえで、今年の「ユネスコ運動の日」では、貧困家庭の子どもたちに対する教育支援に携わっている渡辺由美子さん(下写真)を講師としてお招きし、子どもの貧困の現状と渡辺さんが理事長を務めるキッズドアの取り組みについてご紹介いただきました。

渡辺先生

   まず講演の前半では、日本の子どもたちが置かれている貧困の状況についてお話がありました。

   日本において貧困問題が注目されるようになったのは、2008年のリーマンショック後であり、同年年末に開設された「貧困派遣村」(年越し派遣村)の活動が知られるようになってからだと言われています。

   2012年には厚生労働省が初めて子どもの貧困率を示し(当時は7人に1人)、その後、政府による取り組みが進められましたが、未だに対策が追いついていないとのことでした。

   渡辺さんは子どもの貧困状況について、いくつか具体例を挙げて説明されました。

・昼食代がたったの100円であり、コンビニの駄菓子で済まそうとする子ども。
・ご飯を食べることは知っているが、おかずとは何かを知らない子ども。
・給食のない夏休み中に体重が落ちる子ども。
・親が保険料を納められず無保険のため、医者にかかることができない子ども。
・自宅(狭いアパートの場合が多い)には勉強机がなく、お盆を机代わりにしている子ども。
・誕生日会やクリスマス会など普通の家庭でのイベントを経験したことがない子どもなど…。

   このような状況におかれている子どもたちですが、私たちから見ると普通の子どもたちと同じように見えます。

   この点が重要であると渡辺さんは言われます。つまり、日本では貧困の状況が見えづらいのです。

   日本において貧困家庭と平均的な家庭の収入の間には2.5倍もの格差があるとされていますが、私たちの周りで、見るからに貧しい子どもを見かけることはほとんどありません。

   このいわば「隠れた貧困」にいかに気づくことができるかが、まずは問題解決の第一歩となります。

講演の様子1

   それでは、そもそもなぜ子どもが貧困に陥るのでしょうか。

   さまざまな問題が考えられますが、渡辺さんはとくに日本の教育制度が抱える2つの問題点を指摘されました。

   1つは教育にお金がかかる点です。

   高校卒業までに、たとえすべて公立であったとしても、600万円近く費用がかかるとされています。

   また、外国と比較して公的支援が少なく私費負担の割合が高いのも原因とされています。

   もう1つは学歴により就業機会が左右される点です。

   収入の高い職に就くためには高い学歴が必要で、逆に低い学歴では収入が低く失業のリスクも高まるとされています。

   これら2つの問題が結びつき、高収入・高学歴の好循環から一度脱落してしまうと、そこに戻ることが難しくなる状況が存在しているとのことでした。

講演の様子2

   後半では、上記の子どもの貧困状況を改善させる取り組みとして、キッズドアの「ガクボラ」プロジェクトが紹介されました。

   「ガクボラ」とは子どもたちに無償で勉強を教える学生ボランティアのことです。

   東京を拠点として、800名近くの学生ボランティアが1000名以上の生徒を教えています(2015年度実績)。

   また生徒のニーズに応じて「タダゼミ」(高校受験サポート)や「ガチゼミ」(高校卒業支援)、児童養護施設・母子生活支援施設での学習会などが実施されています。

   渡辺さんはこれらの学習支援を通じて、生徒の学力向上はもちろんのこと、学習習慣や社会的マナーも身につき、さらに社会への信頼や将来への希望も生まれるとして、その効果の大きさを強調されていました。

   また国全体にとっても、生活保護費の支出が抑えられるだけでなく、安定した収入を得られるようになった子どもたちが消費を増やし、税金を納めるようになるため、経済・財政にとってプラスになると主張されていました。

   その一方で、活動を行っていくうえでの課題も示されました。

   まずは貧困が見えづらいことと、貧困家庭に対する偏見を克服しなければならないこと。

   次に子どもの支援だけではなく、親の支援も必要であり、そのためには学校・地域・行政・NPO同士の連携が不可欠であること。

   そして学生ボランティアの活動を正当に評価し、継続して参加してもらうための仕組みづくりが必要なこと。

   さらに渡辺さんは政府に対しても、同一労働同一賃金の徹底や若年層の正社員化、最低賃金の引き上げ、女性の就労支援などに力を入れるよう要望されていました。

   そして最後に、子どもの貧困問題は遠い将来の話ではなく、差し迫った喫緊の課題であり、キッズドアの活動を広げていくため、多くの方のご協力をお願いしたいと会場全体に呼びかけられていました。

講演の様子3

参加者の感想(アンケート結果(回答数25名)より抜粋)

※25名中、24名が「とても面白かった」と回答しました。

・貧困の連鎖が子どもたちの希望を奪ってしまっていること、とても想像を絶するような家庭の中で育っている子どもがいること、そのリアリティーを感じた。もっともっと政府がお金を出してほしい。

・貧困の連鎖を断ち切るために学習支援をすることで、大きな役割を果たしていることを知った。学生ボランティアをしている大学生も支援する必要を感じた。

・具体的な話でよかった。キッズドアのような団体が活動しているのは敬意を表するが、実際には学校教育が本質的に変わる必要性もあるのではないかと思う。いろいろ考えるチャンスになった。

・子どもの貧困が見えないからといって、放置することができないのがよくわかった。学習支援の可能性を信じたい。

(岩野智)