杉並ユネスコ協会
中学生クラブ「英会話とシリアのお話」
2016年9月10日(土)セシオン杉並 視聴覚室・集会室

会場全景

   9月の中学生クラブは前半に英会話を行ったあと、後半に内戦の続くシリアについて写真家の吉竹めぐみさん(正確には「吉」の上部は「土」。上写真の奥)にお話を伺いました。

   吉竹さんは、15歳の時に出会ったT・E・ロレンス(アラビアのロレンス)に心を奪われ、沙漠(シリアの砂漠は「沙漠」と書きます。石や緑も多いそうです)に憧れ、アラブ世界に魅せられて写真家になられました。

国旗   中東地図

   東地中海に面するアラビア半島の国シリアは沙漠と山岳地帯の国ですが、南部には肥沃な土地が広がっています。

   地中海地域を結ぶ交通の要所として栄え、首都ダマスカスは世界最古の都市の1つと言われています。

   面積は日本の約半分で、人口は日本の6分の1ほどです。

   宗教はイスラム教が90%。学制は6・3・3制が取られており、小学校のみ男女共学となっています。なお小学校の制服は青色だそうです。

   大学までの学費は無料となっていて、日本語を学ぶ教育機関として、ダマスカス大学人文学部日本語学科やアレッポ大学学術交流日本センターなどがあります。

国内地図

   シリアには世界遺産(文化遺産)が6ヵ所ありますが、2013年にシリア情勢の緊迫化などを理由に、6件の世界遺産がすべて危機遺産(危機にさらされている世界遺産)リストに加えられました。

   例えば、IS(イスラム国)によって破壊されたとされるパルミラの遺跡(紀元前2世紀から紀元後3世紀頃にシルクロードの交易拠点として繁栄した、ローマ帝国支配時代の都市遺跡。左下写真)が有名です。

   その遺跡の中でもパルミラの「宝石」と言われ、2000年以上の歴史を有する「ベル神殿」の破壊は多くの人を悲しませました。

   一方、ダマスカスの北300kmのトルコ国境付近には、古代都市アレッポがあります。

   この都市は世界遺産に登録されているだけでなく、世界最大の市場の一つともいわれるスーク(アラビア語で「市場」の意味。中央下写真)、そしてアレッポ石鹸(右下写真)でも有名です。

   残念なことにアレッポのスークでは、戦闘の巻き添えで歴史的店舗群の多くが焼失してしまいました。

   アレッポ石鹸はオリーブオイルとローレルオイル(月桂樹の油)でできた100%天然の石鹸で、日本でも売られています。身体によい石鹸とのことなので一度お試しあれ!

パルミラ遺跡 スーク アレッポ石鹸

   続いて、吉竹さんが17年間通い詰めたベドウィン(アラブ系遊牧民)の人たちの様子をご紹介します。

   ベドウィンの家族は一夫多妻で妻は4人まで。主食はパン。燃料はラクダや羊のフンを乾燥させたものを用いています。

   普段はテントで生活をしており、ヤギの毛を織って屋根にしています。トイレは場所が決まっておらず、外ならどこでもOK。夜は満天の星がとてもきれいだそうです。

   仕事は男性が放牧(左下写真)、女性は家事全てと朝晩2回の乳搾り。シャーイ(アラブのお茶)を飲みながら世間話をすることが、暮らしの中での一つの楽しみになっています。

   子どもたちは周りにTVもラジオもゲームも多くの本もないのに、家の手伝いの中に喜びを見つけ、明るく元気に過ごしています。

   町に出れば便利な生活を手に入れることができるのに、彼らは沙漠にかかわり続け、沙漠を愛しています。

   便利な物が生活を豊かにすると思いがちですが、物が少なくても深い思いやりを持って生活をしている彼らは、物に縛られ物に使われている我々とは生活の豊かさが違います。

   「瓦礫や硝煙の国ではなく、羊とオリーブと家族と、つつましやかに暮らす人々の日常を知ってほしい!」と吉竹さんはおっしゃっていました。

放牧 ベドウィン親子

(出典:吉竹めぐみさんのホームページ http://yagitani.na.coocan.jp/megumi_ja01.htm)

   出口の見えない内線が続くシリア。停戦が崩壊したとの悲しい記事も目にします。

   人口の半分が国外に逃れ難民となっており、死傷者は120万人、学校に行けない子どもたちが100万人もいるそうです。

   最近日本政府は中東難民支援策の一環として、2017年から5年間で150人のシリア人留学生を受け入ると表明しました。

   私たちはシリアのために何ができるのでしょうか。寄付や募金はもちろんですが、やはりシリアについて知ってほしいと吉竹さんは語ります。

   そして偏見なくシリアを見てほしい。内戦前は観光客も多く、文化、歴史、自然があり、人々も温かかった。家族を大事にするシリア人は本当にいい人たち。シリアの内戦が1日も早く終結してほしいとおっしゃっていました。

   かつてロレンスによって導かれ、魅せられた昔の世界に戻って欲しいと願う吉竹さんの気持ちが伝わってきました。

吉竹さん

   次回、10月9日(日)の中学生クラブは、イスラームとトルコの文化を体験するため、代々木上原にある東京ジャーミイ・トルコ文化センターを訪問します。

(大野克子)