杉並ユネスコ協会
ユネスコ運動の日2017
講演会「韓国の新政権と日韓関係」
講師 武藤正敏 氏(元駐韓大使)
2017年6月25日(日) 10~12時
セシオン杉並 第8~10集会室 参加者 75名

会場全景1

   民間ユネスコ運動の誕生から70年目を迎えた今年、「民間ユネスコ運動の日」(7月19日)の時期に合わせ、韓国の国内情勢と将来の日韓友好について考える講演会を実施しました。

   講師にはテレビや新聞等で幅広くご活躍されている、元駐韓大使(2010~12年在任)の武藤正敏氏をお招きし、現在の韓国社会の実情と朝鮮半島情勢、そして日韓関係の行方について、元大使としての貴重な経験談を交えながら語っていただきました。

武藤講師1 武藤講師2

   まず、今年の5月に発足したムン・ジェイン(文在寅)新政権についてお話ししていただきました。

   大統領選挙におけるムン氏の得票率は41%で、2位の候補より17ポイントも上回っていましたが、ムン氏以外の2人の候補の得票率を合わせると45%を超え、実際にはムン氏を上回ることになります。

   これは、ムン大統領がパク・クネ(朴槿恵)前大統領に対する国民の不満をうまく吸い上げたものの、必ずしも国民から全面的な信頼を得たわけではないということを表しています。

   武藤氏はムン政権の抱える不安材料として、国内経済を復調させるための諸政策(雇用創出、正規化、最低賃金引上げなど)が、実際には経営難にあえぐ国内企業(とくに中小企業)にとって負担となる点、北朝鮮との「対話」を重視する同政権の方針が米国や日本の方針とは一致しておらず、さらに中国とも弾道ミサイル防衛システム「THAAD」(サード)の配備をめぐって緊張状態にある点などを挙げていました。

   次に日本との関係については、日韓両政府の間で未来志向の発展を目指すという共通認識があるものの、慰安婦問題や竹島問題などの歴史問題をめぐり、依然として認識の違いが見られるとのことでした。

   武藤氏は2015年12月の日韓外相による「慰安婦合意」を、パク前政権が日本側に歩み寄りを見せたものとして評価する一方、韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)のような一部の市民団体による激しい反発があり、また韓国国民の大多数がその合意を情緒的に受け入れられないという現実が存在する中で、ムン政権が上記合意を履行できるかどうか不明であるとしていました。

   さらに同氏は、慰安婦問題そして竹島問題も含めて、日韓双方が一方的に歴史的な事実関係を主張している状況に懸念を示していました。

   とくに韓国側は外交で解決すべき問題を歴史認識の問題とし、日本側の主張を受け付けようとしていません。

   武藤氏は、地域情勢という広い視野から日韓両国にとって何が国益かを考えるべきであると述べていました。

   第3に北朝鮮との関係については、現在のムン政権は「対話」を通じて非核化を実現しようとしていますが、その方法が果たして効果的かどうか、武藤氏はやや懐疑的な見方をしていました。

   例えば、北朝鮮は核を自国の生存にとって不可欠なものと捉えており、簡単に放棄するとは考えられないこと。

   また韓国の北朝鮮に対する経済支援は、軍事(核開発)に使用される可能性が高いこと。

   さらに米国は「対話」の前提として非核化を求めており、ムン政権との足並みが揃っていないといった点が指摘されました。

   武藤氏は、北朝鮮の軍事行動を抑止するためには「対話」ではなく、まずは「圧力」であるとして、日米韓の安全保障枠組みを強化しながら、同時に中国の協力を取り付けていくことが重要であると主張していました。

   講演の最後に、日韓関係の現状と将来の課題についてコメントが加えられました。

   武藤氏によれば、韓国の対日認識は1960年代から現在にかけて、中長期的には改善してきているとのことでした。

   韓国国民も基本的に日本が好きで(例えば観光や日本食、小説など)、同氏も大使在任中に嫌な思いをしたことはないとのことです。

   その一方で、韓国の政治家やマスコミは反日の姿勢を取ることが多く、そこに一部の「確信的反日活動家」が加わって、国内で親日の声が通りにくい状況が生まれているとのことでした。

   さらに韓国人の気質として「頭で考えるより先に心で感じる」傾向があり、それが歴史問題における反日感情となって表れ、同問題の解決を難しくしているのではないかと分析していました。

   日本側でも近年ヘイトスピーチに見られるような嫌韓感情の高まりが問題視されていますが、武藤氏は日韓において人的文化的交流、とくに青少年交流の拡大を通じて、「お互いをより広く、深く知る」ことが将来の日韓友好にとって重要であるとして、「お互いを客観的に見つめる」ことの大切さを強調していました。

会場全景2

   講演後には参加者より質問や感想が多く寄せられ、韓国に対する関心の高さを伺い知ることができました。

   アンケートにおいても、「日韓関係の複雑な事が良く解った」、「報道されているよりも詳しい説明を受けた」、「実際に韓国に住んで生活をして韓国語も堪能な先生のお話は現実的でおもしろかったです。韓国の政権交代があった直後なのでとてもタイムリーな企画と思います」、「本日の講演のような、韓国の政治や国民感情などの実態を知ることは日本人の嫌韓感情を減少させる大きな力になると思います」など、大きな反響をいただきました。

   今後の日韓関係を考えるうえで、本講演会が多くの方にとって貴重な機会になったものと思います。

(岩野智)