「見ることの不思議(Amazing Trick World)
~あり得ないものが見えてくる錯覚の世界」
講師 杉原 厚吉 氏
(明治大学 先端数理科学インスティテュート 研究特別教授)
2020年1月11日(土) セシオン杉並 展示室
目の前に見えているものが実は違った形をしていた――そのような不思議な現象はなぜ起こるのか。
錯覚研究の第一人者である杉原厚吉先生に、錯覚が起こる原因とさまざまな錯覚トリックについてお話していただきました。
杉原厚吉先生
錯覚が起こる原因は主に2つあり、1つは、脳が立体の奥行きを想像して勝手に作り出してしまうこと、もう1つは、さまざまな角度の中で脳が直角に最も注目してしまうこと、とされています。
例えば、「ペンローズ四角形」と呼ばれる立体(下の左上の写真)があります。
これは4本の角材を角で直角につなげた立体ですが、ひねりが加わっているため作れそうにありません。
しかし、角材をはみ出すように交差させたり、曲げた角材を組み合わせたり、角を直角以外の角度でつなげたりして、それらを決まった方向から見ると立体が存在しているように見えます。
これは、人間の脳が奥行きの長さを自動的に判定して作り出してしまうからです。
また、実際には直角でなくても立体が直角につながっていると思い込んでしまうため、錯覚が起きます。
ペンローズ四角形
角材をはみ出すように交差させる
曲げた角材を組み合わせる
角を直角以外の角度でつなげる
このような脳の性質を利用して、杉原先生はさまざまな錯覚作品を作ってこられました。
「変身立体」と呼ばれる作品は、鏡に映すと形がまったく変わって見えます。
下の写真では、直接見るとすべてハート形に見えますが、鏡の中ではそれぞれ違う形に見えます。
変身立体の一例
「トポロジー攪乱(かくらん)立体」と呼ばれる作品は、鏡に映したときに立体のトポロジー(つながり方)が変わって見えます。
下の写真では、直接見ると円柱の内側の輪が互いにつながっているように見えますが、鏡の中では離れたり形を変えたりして見えます。
トポロジー攪乱立体の一例
そして「三方向変身立体」と呼ばれる作品は、3つの方向から見たときに3種類の異なる姿が見えてきます。
下の写真では、直接見ると旗の高さがピンク、緑、赤の順に高くなっていますが、左の鏡では緑、赤、ピンクの順に高くなっており、右の鏡では赤、ピンク、緑の順に高くなっています。
三方向変身立体の一例
杉原先生の紹介された作品に多くの参加者が見入っていました。さらに、講演後も会場に展示された作品群を写真に収める方がたくさんいました。
タネが明かされても錯覚は目の前で何度でも起こります。その不思議な魅力に「科学する心」を揺さぶられた講演会でした。
(岩野智)