杉並ユネスコ協会
第10回韓国スタディツアー
2016年12月26日(月)〜29日(木)

   将来の日韓友好について考える青年部主体の韓国スタディツアーが、昨年末にソウルで行われました。

   今回で10周年を迎えた本ツアーには、青年3名(高校生2名、中学生1名)、大人4名(内3名は理事)の計7名が参加しました。

   ※本ツアーは公益社団法人日本ユネスコ協会連盟の「2016年度青少年ユネスコ活動助成」を受けて実施しました。

日本国旗  韓国国旗

   今回の韓国スタディツアーでは、「日韓の歴史問題について学び、将来の日韓友好のあり方を考える」というテーマを設定しました。

   日本による朝鮮半島の侵略やいわゆる「従軍慰安婦」問題など、かつての日本の加害者としての行為を直視し、それらの問題の解決にむけて、若者の視点から新たな方法を模索することを目的としています。

   訪問先としては、まず「日韓の歴史問題について学ぶ」という観点から、西大門刑務所歴史館とナヌムの家(日本軍「慰安婦」歴史館)を見学しました。

   次に「将来の日韓友好について考える」という観点から、韓国ユネスコ協会連盟の事務所にて、韓国人の青年たちとディスカッションを行いました。

   以下、それぞれの訪問内容と青年たちの様子を簡単に紹介します。

西大門刑務所

   まず、ソウル市内の北西部にある西大門(ソデムン)刑務所歴史館では、明治期の日本による韓国植民地化の歴史について学びました。

   西大門刑務所は1908年に「京城(キョンソン)監獄」という名称で、当時大韓帝国を保護国化していた日本(韓国では「日帝」(日本帝国主義または日本帝国)と表現されています)により建設されました。

   建設の目的は韓国人の独立運動家を政治犯として収容し、日本による韓国統治を円滑に進めることにありました。

   同刑務所は現在は歴史館となっており、牢獄の内部や収監・拷問の際に使用された道具、収容者の生活の様子などが展示されています。

   それらを見た青年たちは、事前に刑務所の勉強をしていたこともあり、それほど驚いた様子ではありませんでしたが、日本の侵略・弾圧に対する韓国人の怒りや悲しみを改めて実感したようでした。

獄舎 拘束具

   次に、ソウルから南東30kmの郊外にあるナヌムの家では、日中戦争および太平洋戦争中に性暴力の被害を受けた韓国人女性について学びました。

   「ナヌム」とは韓国語で「分かち合い」を意味しており、同施設では元日本軍「慰安婦」の方々が共同生活をしていらっしゃいます。

   私たちは彼女たち(韓国では「ハルモニ」(おばあさん)と呼ばれています)に直接お会いし、言葉を交わすことができました。

   ハルモニたちは私たちの予想とは反対に、日本人である私たちを流暢な日本語で温かく迎えてくださいました。

   彼女たちによれば、憎んでいるのは日本政府であり、日本人に対しては憎しみの感情はなく、むしろナヌムの家を訪問してくれるような日本人に対しては好感を持っているとのことでした。

   その後、同施設内に設置されている日本軍「慰安婦」歴史館を見学しました。

   そこでは、「慰安婦」とは何かという基本情報から、当時の「慰安所」での生活の様子、さらには戦後の証言・示威運動の過程に至るまで、パネル展示によりわかりやすく説明されていました。

   ナヌムの家を訪問した青年たちは、戦時中にハルモニたちが置かれた厳しい状況を想像しながら、戦争がもたらす悲惨な結果、とくに弱者である女性が受ける被害について理解を深めたようでした。

ナヌムの家
ナヌムの家「生活館」
パクハルモニ
中央はパク・オクソン ハルモニ(93歳)
慰安所
再現された「慰安所」

   そして、日韓の過去の歴史を踏まえたうえで、韓国人の青年たちと将来の日韓友好の土台作りを目指してディスカッションを行いました。

   このディスカッションは韓国ユネスコ協会連盟のご協力により、韓国人高校生3名および大学生1名との間で4時間ほど行われました。

   トピックは多岐にわたり、韓国における日本人の印象やお互いの国における文化的特徴・慣習、普段の学校生活の違いといった軽い話題から、韓国国内の政治情勢、北朝鮮との関係、日韓の歴史問題の受け止め方といった重くセンシティブな話題まで、膝を交えて語り合いました。

   私たち日本人の側にとって最大の関心事は、韓国の若者が日韓の歴史問題についてどのような見解を持っているかということでした。

   ある韓国人の参加者は、2015年12月の「慰安婦」問題に関する日韓合意を取り上げ、日本政府がお金で解決しようとしているという印象を多くの韓国国民が持っていると指摘しました。

   また他の韓国人の参加者は、戦時中の日本による加害行為を日本政府が公に認めないことが問題であるとして、過ちを認めれば済む話であるにもかかわらず、なぜそれをしようとしないのかと、日本政府に対する不信感というよりはむしろ単純な疑問として、同政府の対応を捉えていました。

   日本人の参加者からは、敗戦国である日本が国際的地位を高めていくためには、歴史問題を早期に処理することが必要であり、日本政府として被害者への謝罪よりもそちらが優先されてきたのではないかと、自身の分析に基づいて説明がなされました。

   また日本の若者の間で政治への関心が低く、政府の方針に対して疑問を持ったとしても、声を上げて行動に移す機会が少ないという問題点も挙げられました。

   最終的に、意見交換の結果、お互いに自国の政府の行動を絶えずチェックするとともに、将来の世界全体における戦争の防止という大局的な視点に立って、日韓の歴史問題の解決方法を模索し続けていくという結論になりました。

   とくに若者らしい解決方法として、サブカルチャーを中心とした文化交流という提案もなされ、政治によらない解決も十分可能であると、参加者全員が共通の認識を持つことができたのは大きな収穫でした。

ディスカッション1 ディスカッション2 ディスカッション3

   今回のツアーでは、他に北朝鮮との国境付近にある非武装地帯(DMZ)および第3トンネルを見学するなど、朝鮮半島における「戦争と平和」について多くを学び、そして多くのことを考えることができました。

   ツアーに参加した青年たちにとっても、普段の日常では得られない貴重な体験になったと思います。この体験を、将来の日韓友好を築くためにさまざまな形で役立ててほしいと願っています。

   最後に、ディスカッションの開催にご協力いただいた韓国ユネスコ協会連盟の皆様と、貴重な助成金を提供してくださった日本ユネスコ協会連盟の皆様に心よりお礼申し上げます。

※本ツアーの報告会を2017年1月14日(土)に開催しました(詳しくはこちら)。

※ツアー報告書「第10回韓国スタディツアー報告書2016」もぜひご覧ください(前半はこちら、後半はこちら)。

(岩野智)